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京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)17号 判決 1989年5月31日

京都市左京区大原上野町二五二番地の一

原告

辻石一之

右訴訟代理人弁護士

村井豊明

右同

荒川英幸

同市同区聖護院内頓美町一八番地

被告

左京税務署長

田中準治

被告指定代理人

小見山進

右当事者間の頭書更正処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり、判決する。

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「一、被告が原告に対し昭和五七年一二月二一日付でした昭和五四年分、昭和五五年分の所得税の各更正処分のうち、別表Aの右各年分の確定申告の事業所得金額欄記載の金額を超える部分、及び右各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分を取消す。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告

1  請求原因

(一) 原告は、「辻石工務店」なる屋号で、建築工事業を営むものである。

(二) 原告は、昭和五四年分、昭和五五年分(以下本件各係争年分という)の確定申告を別表A記載の確定申告欄記載のとおり申告した。

(三) 被告は本件各係争年分の所得税につき、昭和五七年一二月二一日付で別表A所定欄記載のとおり更正処分(ただし、昭和五五年分は更正処分と再更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下本件各更正処分という)。

(四) 原告は別表A所定欄記載のとおり、本件各更正処分に対して、異議申立、審査請求をしたがいずれも棄却された。

(五) 以上の課税処分の経過は別表Aのとおりである。

2  主張

被告の本件各更正処分は次のとおりであつて取消すべきものである。

(一) 被告が本件各更正処分の前になした税務調査は、原告依頼の第三者の立会を拒否し、原告の同意を得ず一方的に取引先に反面調査をしたもので推計の必要性がない。

(二) 本件各更正処分は同業者の選定等合理性のない推計に基づくもので、本件各係争年分の総所得金額を過大に認定した違法がある。

二  被告(答弁及び抗弁)

1  答弁

(一) 原告の請求原因事実は全部認める。

(二) 原告の主張を全部争う。

2  抗弁

(一) 推計の必要性

本件には次のとおり推計の必要性がある。

(1) 被告は本件各係争年分の所得調査のため、部下職員を昭和五七年四月一四日以降本件各更正処分までの間、前後一一回にわたり原告の自宅及び事業所に訪問させた。

(2) 原告は第三者の立会を求めたり、帳簿書類の提出を拒否して、調査に協力しなかつた。なお、被告は第一回以後に臨場の際、銀行帳簿の一部などを提出したがそれ以外の帳簿などを一切提示せず、その後も調査に協力しなかつた。

(3) したがつて、実額計算は困難であり、推計の必要性がある。

(二) 推計の合理性

本件には次のとおり推計の合理性がある。

(1) 同業者率により算出された原告の本件各係争年分の事業所得金額の計算は、別表A(1)のとおりである。

(2) これにより算出された事業所得金額は次の方法によつて行なつた。

イ 原告の係争各年分の売上金額は、原告の仕入金額(別表A(2))を原材料費の額として、これを同業者の平均原材料費率(売上金額のうちに原材料費の額の占める割合の平均値をいう)で除して算出した金額である。

ロ 算出所得金額(売上金額から売上原価及び一般経費の額を控除した金額をいう)は、前記イで算出された売上金額に別表A(4)記載の平均所得率を乗じて得た金額である。

ハ 特別経費は、別表A(3)の記載のとおりである。

ニ 事業専従者控除額は、原告の申告額である。

ホ 事業所得金額は、算出所得額から、特別経費と事業専従者控除額を控除した額である。

(3) 同業者率の基礎になる同業者は次の基準により、選定したものであつて、この同業者の平均原材料費率及び平均算出所得率は、抽出された同業者が業種、事業場所、事業規模等の点において、原告と業態の類似性を有し、かつその申告の正確性の裏付けがある青色申告者であるから、正確性と普遍性が担保されている。

即ち、この同業者は、京都市内の各税務署管内にある事業所を有する青色申告をしている同業者で次の抽出基準に従つて抽出した同業者総数七名で、別表A(4)、(5)のとおりである。

イ 木造建築工事業者。

ロ 他の業種目を兼業していないこと。

ハ 年間を通じ事業を継続していること。

ニ 年間の原材料費が二、〇〇〇万以上一億二、〇〇〇万未満であること。

これは、事業規模の類似性を担保する見地から年間の原材料費額が前示により算出された原告の本件各係争年分の原材料費額のうち、昭和五四年分の約五〇パーセント相当額、昭和五五年分の二〇〇パーセント相当額の範囲にある同業者とした。

ホ 事業専従者が配偶者のみであること。

ヘ 所得税につき不服申立又は訴訟が係属中でないこと。

三  原告(抗弁に対する答弁・主張)

1  答弁

(一) 被告主張の抗弁(一)(1)のうち、調査が前後一一回あつたことを否認し、その余を認める。なお、調査は前後五回である。

(二) 同抗弁(一)(2)のうち、原告が調査に協力しなかつたという点は否認し、その余の事実を認める。

(三) 同抗弁(一)(3)を否認する。

(四) 同抗弁(二)(1)を否認する。

(五) 同抗弁(二)(2)のイのうち、別表A(3)記載の吉田商会、吉田木材、桜井金物からの仕入額が原材料費に当たることを否認し、その余の原材料費を認める。なお、吉田商会、吉田木材、桜井金物からの仕入れには、別表Bのとおり工具類や設備費(ステンレス流台)が含まれているが、これは原材料費とはいえない。

その余のイの事実を否認する。

同ロの事実を争う。

同ハの事実のうち、利子割引料を認めるが、その余を争う。

特別経費はこれに限らない。

同ニを認める。

同ホを争う。

(六) 同抗弁(二)(3)を争う。本件推計には全く合理性がない。

2  主張

(一) 被告の本件推計は前記のとおり原材料費に工具類や原材料設備を含めたものを基礎としているし、特別経費には原告所有の作業所兼倉庫の昭和五五年の減価償却費一〇万一、三七八円を算入すべきである。

(二) 建築業の売上金額の推計には、被告の採用している「原材料費率」よりも外注費、労務費による「平均売上原価率」による推計の方が合理的であり、同業者売上原価率は別表B(1)ないし(4)のとおりであつて、原告の売上原価(外注費及び労務費)は別表B(5)(6)のとおりであるから、これによれば、原告の昭和五五年の事業所得金額は別表B(7)のとおり一、〇二七万〇、三〇四円となるから、少なくとも越える部分は取り消すべきである。

四  被告(反論)

(一)  工具類の設備費(流台)などはともに原材料費にあたる。

(二)  作業所兼倉庫の耐用年数が不明であるが、原告の主張をそのまま認めても原処分額を上回るから、本件各更正処分には違法がない。

(三)  原告主張の売上原価として主張する別表B(5)(6)の労務費、外注費には金額、支払先とも脱落があり、不正確であるから、これによる推計はできない。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件記録中の各証拠関係目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがない。

二  証人河野富弘、同沢亀泰造の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)の一部、弁論の全趣旨に照らすと、被告の抗弁(一)(1)ないし(3)の事実を認めることができ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は、前掲証拠、弁論の全趣旨に照らし遙かに措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

三  被告主張の抗弁(二)(2)は、そのうちの吉田商会、吉田木材、桜井金物からの仕入金額が原材料に当たるとの点を除く事実は当事者間に争いがない。

四  成立に争いのない乙第三ないし第一〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一三ないし第一五、第一七号証、証人東好信の証言により成立が認められる乙第一号証の一ないし七、第二の一ないし七、弁論の全趣旨により成立が認められる第一一、第一二、第一六、第一八号証、証人東好信の証言、原告本人尋問の結果の一部、前示当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨を総合すると、被告主張の抗弁(二)(2)の事実は、そのうち、特別経費に後記のとおり減価償却費を加算するほか、その余の事実を全部認めることができる(ただし、前示三の事実は当事者間に争いがない)。

五  原告は、吉田商会、吉田木材、桜井金物からの仕入れには、別表Bのとおり工具類や設備費(ステンレス流台)が含まれているが、これは原材料費とはいえない旨主張するが、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、これが原材料費に含まれるものというべきであり、前示措信しない証拠のほか、他にこれを覆すに足る証拠はない。

六  原告本人尋問の結果(第二回)、及び、これにより成立が認められる甲第一号証の一、二、第二号証、弁論の全趣旨を総合すると、原告の昭和五五年分の特別経費には原告所有の作業所兼倉庫の減価償却費は一〇万一、三七八円を算入すべきものと認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。

七  以上に基づき原告の事業所得金額を算出すると、別表Cのとおり、昭和五四年分は一、〇〇六万九、五六四円、昭和五五年分は一、七〇七万三、三八九円となり、本件各更正処分の所得金額の昭和五四年分七五〇万一、五二三円、昭和五五年分の一、四六二万〇、一八四円を上回るので、本件各更正処分には過大認定の違法がない。

八  原告は、木造建築業の所得額の推計には被告主張のような原材料費からではなく、外注費、労務費などの売上原価率によるべきであると主張するが、前示四冒頭掲記の各証拠、弁論の全趣旨によれば、必ずしもそのように解しなければならないものとはいえず、被告主張の原材料費による推計にも合理性があると認められるのみならず、原告主張の別表B(5)(6)の外注費、労務費には、前掲乙第一二ないし第一八号証、甲第一五号証の一二、第二八号証の一、甲第三〇号証の九、甲第四二、第四三号証、原告本人尋問の一部、弁論の全趣旨を総合すると、その実額は頭書の主張金額から金額、支払先に記入もれ、脱落部分があり、本訴において何度も訂正、差し替えを繰り返していることが認められ、前示措信しない証拠のほか、これを動かすに足る証拠がないから、原告主張の外注費、労務費などの売上原価率は不正確であつて、これによる推計は相当でない。

九  よつて、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 和田康則 裁判官田中恭介は転任につき署名押印できない。裁判長裁判官 吉川義春)

別表A

課税の経緯

<省略>

別表A(1)

事業所得金額の計算

<省略>

別表A(2)

原材料費の明細

<省略>

別表A(3)

特別経費(利子割引料)

<省略>

別表A(4)

昭和54年分同業者率の算定表

<省略>

別表A(5)

昭和55年分同業者率の算定表

<省略>

別表B

設備品・工具類の仕入表

<省略>

別表B(1)

昭和54年度分同業者率算定表

<省略>

別表B(2)

昭和55年度分同業者率算定表

<省略>

別表B(3)

昭和54年度分同業者売上原価率算定表

<省略>

別紙B(4)

昭和55年度分同業者売上原価率算定表

<省略>

別表B(5)

昭和55年度労務費

<省略>

別表B(6)

昭和55年度外注費

<省略>

別表B(7)

昭和55年度事業所得金額の計算

<省略>

別表C

事業所得金額の計算

<省略>

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